高橋浩之氏(第65・66期副会長)コラム

2018年

いろは歌

暗号ミステリーの最高峰と称される竹本健治さんの「涙香迷宮」、すべての仮名を重複させずに使って作る「いろは歌」が暗号のテーマとなっています。「いろは歌」といえば、古文で習った「いろはにほへと」から始まるものが本歌ですが、皆さん最後まで覚えていますか?私は二行目以降すっかり忘れていました。「涙香迷宮」の作中で、意味を分かりやすくするために漢字交じりにして解説していましたので、以下に紹介します。
 色は匂へど 散りぬるを (いろはにほへと ちりぬるを)  我が世誰ぞ 常ならむ  (わかよたれそ  つねならむ)  有為の奥山 今日越えて (うゐのおくやま けふこえて)  浅き夢見じ 酔ひもせず (あさきゆめみし ゑひもせす)

いろは歌(2)

日本語の仮名を用いた「いろは歌」と同様に、外国語でも「すべての文字を一回ずつ使って作られた意味のある文」が創作されており、これを「完全パングラム」というそうです。前回のコラムに引き続き、竹本健治氏の「涙香迷宮」で例示されていました英語版を紹介しましょう。他の言語の「完全パングラム」もありますので、興味のある方は調べてみてください。  Cwm fjord veg balks nth pyx quiz.  Jumbling vext frowzy hacks PDQ.

ワトソン役

ワトソン役とは、推理小説における探偵の助手役、または物語の語り部役のことです。これは英国の小説家コナン・ドイルの推理小説シャーロック・ホームズシリーズに登場する主人公の友人ワトソン医師に由来します。頭脳明晰な探偵役と比較して、ワトソン役は読者視点に近い愛すべきキャラであることが多いように思います(御手洗潔シリーズの石岡和己や百鬼夜行シリーズの関口巽のように)。好きな名探偵のアンケート結果は目にしますが、残念ながらワトソン役の結果は検索してもヒットしません。探偵役と比較するとやはりマニアックなのでしょうね。

2017年

新本格ミステリー30周年

「新本格ミステリー」が誕生して30周年という節目を迎えたことから記念出版やフェア、トークショーなどが企画され、盛況を呈しているとの記事が全国紙に掲載されていました(日経、朝日、産経各紙)。日本の推理小説に新風を吹き込んだ「新本格ミステリー」は、本コラムでも紹介しました京大ミス研出身の綾辻行人氏のデビュー作『十角館〜』から始まったとされています。デビュー作以降、水車館、迷路館、人形館…と続く「館」シリーズは、9作目となる『奇面館〜』が2012年に刊行され、区切りとなる次作が最終作とのこと。綾辻氏が参加したトークショーでは「10作目をこの数年で出版する」と意欲を語っていたそうですので楽しみに待ちたいと思います。

建築探偵

篠田真由美さんの「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズでは、建築学に造詣が深いことが伺える様々な建築に関する薀蓄が語られています。シリーズ第4作では、帝冠様式(鉄筋コンクリートの建築に日本風の瓦屋根をかける昭和初期に流行した和洋折衷建築)の歴史的背景や、帝国ホテル設計にかかわる下田菊太郎とフランク・ロイド・ライトの確執が事件と交わることにより、ストーリーに厚みを与えています。門外漢の私が建築に関する専門書を手に取ることはありませんので、本作は建築史の入門書としても楽しむことができました。読後に調べてみて、地元の神奈川県庁舎が帝冠様式の代表作のひとつということを知ったのも本作のおかげです。

難攻不落?の密室

前回のコラムでは密室の大きさを取り上げてみましたが、今回は難攻不落とも思われる風変わりな密室を思い描いてみました。人の出入り不能な閉ざされた場所ということで、観覧車のゴンドラ、運行中の列車の運転席、飛行機のコックピット、SPに警護された大統領執務室、核シェルター、有人人工衛星、深海探査艇、といったところです。もしかしたら既に作品に取り上げられている密室もあるかもしれませんが、未読ゆえということでご容赦ください。さて作品に取り上げてもらえそうな候補はありましたでしょうか?

読者への挑戦!

本格ミステリーと呼ばれるジャンルの作品の中には、「読者への挑戦」という文面が挿入されていることがあります。本編が突然中断され、作者から読者への挑戦文が登場します。このスタイルの作品を初めて目にしたときは驚いたものでした。「ここまでで推理に必要な手がかりは全て晒した。さあ読者よ、真相(犯人やトリック)を看破してみよ!」というのが典型的な文面です。「推理の手がかりはまだ欠けているな」と思っているところに突如この文面が登場しますので、「え?手がかりは全て揃ったの??」と焦って頁を遡ることもしばしばです。本格ミステリー以外では目にしないスタイルと思いますが、「他分野の小説にも読者への挑戦文ありましたよ」という情報がありましたらご一報ください。

ミステリーに登場するジグとは?

私の職場では日常的に「ジグ」という用語が使われています。読みは同じで英単語は「jig」、漢字は「治具」です。機械加工や組立を行うときに用いる道具のことで、職場外ではほとんど耳にしたことがないため機械専門用語と認識していました。さて先日読了した森博嗣氏のタイトルが「ジグ…」から始まる作中で、建築学科の先輩が後輩に「ジグとはものを作るときに使う位置合わせとかの道具、ようするに汎用的じゃないもののこと」と説明し、「ほら、鉄筋を曲げたとき使ったじゃない」と補足していました。この文面を読むまでは思いもしなかったのでしたが、タイトルの「ジグ…」とは職場で使っている治具そのものなのでした。治具が建築分野で使われていることも本作で知りました。

理系ミステリー(3)

本コラムで理系ミステリー作家の代表格として森博嗣氏と東野圭吾氏を紹介しましたが、第47回メフィスト賞を受賞して2013年にデビューした周木律氏の作品も結構な理系ミステリーです。主人公(探偵役)は放浪の天才数学者。作中の会話を引用しますと、「トーラスっていうのは位相幾何学の用語で、ドーナツみたいな穴の開いた形のことを指すの。トーラスの一次元ベッチ数は二になる・・・」はて?この数学ネタを何事もなく読み進められる読者はどれほどいるのでしょうか?本作では位相幾何学が密室の謎を解く鍵になるものの、数学ネタの部分が理解できなくても(もしくは読み飛ばしても)、ストーリーを理解するうえには問題ありませんのでご安心あれ。

横溝正史ブーム

私が高校生の頃(昭和50年代)、空前の横溝正史ブームが起きました。角川映画の「犬神家の一族」がきっかけとなり、その後も横溝作品が映画化、ドラマ化されたことをご記憶の方も多いと思います。「犬神家」や「八つ墓村」の特定の場面の映像やセリフは今も記憶に鮮明です(繰り返しCMで見たからかもしれません)。さて、先日古書店で横溝作品を見かけ、懐かしく思ったためおよそ40年ぶりに読んでみました。部分々々に記憶はあるものの全体としては忘れていることが多く、初めて読んだ作品のように十分に楽しむことができました。驚いたことにメインのトリックすら忘れている始末でしたが・・・

ノックスの十戒

ノックスの十戒とは、ロナルド・ノックスが1928年に発表した推理小説を書く際の10項目のルールとされています。いくつか取り上げてみますと、
1.犯人は物語の当初に登場していなければならない
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない
その他の項目にも興味のある方は検索してみてください。なお実際のミステリー作品にはこの十戒を破ったものが多数あります。十戒のひとつである「探偵自身が犯人であってはならない」を破った作品も何作か読んだことがあります。「それはずるい!」と結末の時点では思いますが、結局のところ面白ければ何でもアリだなと、いうのが一般的読者層である私の感想です。

叙述トリック

ミステリーのトリックいえば、「密室トリック」や「アリバイトリック」が代表的なものですが、「叙述トリック」と呼ばれる一種の心理トリックがあります。作者が読者に仕掛けるもので、先入観や思い込みを利用して読者に文章を誤認させるものです。男性だと思い込んでいた登場人物が実は女性であったとか、僕という一人称で語る登場人物が実は2人であったとかが一例です。読み返してみるとヒントがいたるところに記述されているのに思い込みによって気がつきません。最後に大どんでん返しとなり、気がつかなかった自分の鈍さに呆れるのですが、このジャンルの傑作といわれる作品の読者感想をネットで読むと、スカッと騙された爽快感を述べている方が多いので、気がつかないほうが作品を満喫できたとも言えるでしょう。なお、他のトリックを用いた作品と異なり、「叙述トリック」を用いている作品であることを知らないで読むことが大切です。

TVドラマ最多登場の名探偵は?

国内作家に限ったとしてもミステリーに登場する名探偵はかなりの人数になるでしょう。その中でTVドラマに数多く登場している名探偵は?と問われれば「金田一耕助」と「浅見光彦」ではないでしょうか。映画では石坂浩二さんが主演した「金田一耕助」ですが、TVドラマでは古谷一行さんが主演し50作近くが製作されています。一方「浅見光彦」は映画化こそ1作ですが、シリーズ化されたドラマはTBS版の初代辰巳?郎主演13作、2代目沢村一樹主演18作、3代目速水もこみち主演4作、合わせて35作が製作されています。更にフジテレビ版では、初代榎木孝明主演14作、2代目中村俊介主演38作、合わせて52作となります。これに非シリーズ作を加えると全部で100作ほどになりますので名探偵「浅見光彦」がドラマ最多登場の本命といえるでしょう。 ただし小説に限らなければ、アニメのコナン君や金田一少年のほうが製作数の多いことは間違いないでしょう。

シャルルの法則と密室の関係

『黒い家』で日本ホラー小説大賞受賞、『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞受賞、『新世界より』で日本SF大賞受賞と幅広いジャンルで活躍の貴志祐介氏。嵐の大野さん主演で月9ドラマとして放送された『鍵のかかった部屋』の原作者です。ドラマ原作本の『防犯探偵シリーズ』には多種多様な密室が登場しますが、その中には物理法則を用いた密室があります。そのひとつがシャルルの法則。本作は理系ミステリーではありませんが、部屋の容積と温度変化から扉にかかる圧力を求める計算過程が記されています。圧力のため扉が開かないので鍵がかかっているものと誤認させるわけです。更にこの後、目の前なのに気づかれずに鍵をかける本命のトリックが登場します。(ネタバレになるためここまで)

京大ミス研作家の描く美少女探偵

京大ミス研出身の第一世代新本格派作家3名を本コラムで紹介しましたが、第二世代新本格派のひとりである麻耶雄嵩氏も京大工学部を卒業した京大ミス研出身作家です。デビュー作で名探偵誕生というのがお決まりのパターンでしょうが、氏のデビュー作はなんと銘(名ではなく)探偵最後の事件。その後も一貫して癖のあるややマニアックな作品を書き続けています。その代表作の一つ、2011年に日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した「隻眼の少女」は、数あるミステリーの中でも映像として見てみたい筆頭作です。隻眼の美少女探偵が主役という点でドラマ向きであるだけでなく、20年の時を経た2部構成というスケールの大きなストーリーです。ぜひ2時間スペシャル2週連続前後編(原作の2部構成に合わせて)でドラマ化してほしいものです。驚愕のどんでん返しが前後編ともにあることは言うまでもありません。

世界最長のミステリー

中央大学理工学部を卒業した二階堂黎人氏の(名探偵)二階堂蘭子シリーズ第5長編となる「人狼城の恐怖」は世界最長のミステリーとして知られています(ギネス認定)。本作は四部構成で、第一部ドイツ編、第二部フランス編、第三部探偵編、第四部完結編、合わせて四千頁強という超大作です。第一部と第二部ではドイツとフランス両国で同時に起こる複雑怪奇な事件が語られ、第三部になってようやく女子大生探偵二階堂蘭子が登場します。2か国の古城で起こった謎の事件に遠く離れた日本の地の名探偵がどのようにして関わり、現地に乗り込み、解決していくのかという冒険活劇的な側面もあるストーリー展開が読み応え十分です(なんといっても長いですから…)。この四部作を読了するのにたっぷり2週間以上かかりましたが、残り頁がわずかとなると「もう終わってしまうのか」という寂しさを感じたものでした。

メンガーのスポンジ

先日読了した周木律氏の理系ミステリー(堂シリーズ第3作)の作中に「メンガーのスポンジ」なる不可思議な数学ネタがまたまた登場しました。密室トリックにも使われます。作中から引用しますと、「一次元におけるカントールの集合を三次元に拡張したものです。自己相似性を有し、表面積は無限大なのに体積がゼロになっているという、たいへん変わった図形です。」さて、表面積が無限大で体積がゼロとは如何なる図形?ご興味を持った方は検索してみてください。イメージ画像もあります。普段実体のあるものしか扱わない工学屋の私にとって、数学の世界に存在するこの図形を理解するのはちょっと難しいですね。

2016年

時刻表トリック

時刻表トリックの傑作として読み継がれている松本清張氏の「点と線」を45年ほど前に読んだことがミステリー愛好家になるきっかけとなりました。夏休みの読書感想文の宿題に本作を書いたのですからよほど気に入ったのでしょう。分厚い時刻表を開いて乗り継ぎを調べることも遠方に旅に出るときの楽しみのひとつでしたが、今はネットで簡単に経路検索できてしまう便利な世の中となりました。その反面、思いもよらぬ経路で早く目的地へ到着…という様なトリックは、今は成立しないかもしれませんね。

理系ミステリー

理系ミステリーといわれるジャンルで人気の森博嗣氏。手元の文庫本の著者プロフィールには「某国立大学の工学部助教授」と記載されていますが、コンクリートが専門の建築学科の先生だったということはご存じの方も多いと思います。いかにも理系らしく「無重力状態で紙飛行機はどのように飛ぶか」といったことが作中で解説されています。もちろん専門のコンクリートの種類や乾燥時間なども登場します(トリックの一部として)。特筆すべきことは、1990年に材料学会の論文賞を受賞されていることです!(関東支部の横山先生に教えていただいた情報です)

旅情ミステリー

旅情ミステリーを読むと、知らない処に行った気分が味わえることが楽しみのひとつです。それまでまったく聞いたことのない地名であったのに、読み終わって行ってみたいと思う場所は増える一方です。残念ながらなかなか実現しませんが。内田康夫氏の小説の舞台となった奈良の天河神社のように、小説やその映画化によって訪れる人が増えたということは結構あるそうです。

旅情ミステリー(2)

訪れたことのある観光地などが舞台のミステリーの場合でも、読みながらその風景が懐かしく思い出されることで読書の楽しみが膨らみます。最近読んだ長崎を舞台とした旅情ミステリーでは、20年ほど前に訪れたグラバー園や稲佐山などの様子が鮮明に蘇りました。これもまた再訪したいと思うのですが、読むほどに候補が増えるようではきりがありません。

ネタばれ注意

飲食店を選ぶとき、実際に食事をした人の感想が参考になりますので、ネットで検索することが多いと思います。私も第65期通常総会で富山を訪れた際、「富山ブラックラーメン」をどのお店で食べようかと検索しました。同じようにミステリーについても既読者のお勧めをネットで調べることがあります。ただし飲食店の検索と異なる重要なポイントが…それは既読者の感想を絶対に読まないこと!「どんなに素晴らしいトリックだったのか」が解説されていることがままあるからです。それを先に知ってしまったらミステリーを読む楽しみは台無しです。

理系ミステリー(2)

理系ミステリーといえば、ドラマや映画でおなじみの東野圭吾氏を多くの人が思い浮かべると思います。私が読んだ作品中に、「ワイヤー放電加工機」、「超音波加工機」といった用語が登場しました。いずれも職場にある工作機械名称ですので、その原理からよく知っているのですが、見たことも聞いたこともないという文系読者はどのようなものを思い浮かべるのかな?と興味がわいたりします。もっとも全体のストーリーには影響ないので、気に留めることなく読み続けているのでしょうね。

嵐の山荘

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況下でおこる事件を扱ったミステリー、そのジャンルを称して「嵐の山荘もの」と呼んでいます。映画化されたアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」が古典的作品のひとつで、小学生のころTVでドキドキしながら見た記憶があります。近年でも多くのミステリー作家がこのジャンルに挑んでいますが、当然過去の作品と同じネタは使えませんので後になるほど新たなアイデアが必要となります。既製の特許を避けながら、さらにいい商品を生み出す苦労に少し似ているのかもしれませんね。

嵐の山荘(2)

外界との往来が断たれた状況下ですので電話は繋がりません。電話線が切られているというのが定番です。無線機が修理不能なほどに壊されているというのもこれまた定番です。90年代前半まではこの設定でよかったのでしょうが、今世紀ともなりますと一人一台所有している携帯電話が解決すべき問題となります。通話エリア外に連れ出すというのでは工夫が乏しいでしょう。不審に思われないような手段で隔離される全員の携帯電話を取り上げることができれば面白いかもしれません。科学技術の発展とともにミステリーの設定も変わり、ハードルが高くなるのは興味深いことです。

ミス研出身

私と同世代の人気ミステリー作家に綾辻行人氏(1960年生れ)、我孫子武丸氏(62年生れ)、法月綸太郎氏(64年生れ)がいます。この3名にはミステリーファンご存知の共通点があります。それは3名とも「京大推理小説研究会(通称:京大ミス研)」の出身者ということです。調べたところ綾辻氏は、京大の公開講座において学生・教職員・一般人を対象とした講演を行ったこともあるとのこと。機会があれば聴講したいものです。 さらにお隣の同志社大学ミス研出身者に、今年TVドラマ化された「火村英生シリーズ」でお馴染みの有栖川有栖氏(59年生れ)がいます。この頃に京都で学生時代を過ごし、プロの人気作家となった方が多いのは何故なのでしょうか?これもミステリーですね。

旅情ミステリー(3)

「このジャンルの作品を読む楽しみのひとつは旅をした気分が味わえること」と本コラムに以前書きました。それゆえ、あえてタイトルに地元を冠したミステリーを読むことはなかったのですが、最近になって地元横浜を舞台とした内田康夫氏の作品を読みました。すると横浜の観光名所だけではなく、なんと私の生活圏内にあるローカルなお寺が事件の舞台の一つになっているではありませんか。さらに驚くことに、そのお寺の裏山(あまり整備されていない散策路がある)や周辺の住宅地が現実の通りに丁寧に描かれていたのです。氏の作品は47都道府県すべてが舞台となっていますが、どの作品でも安心して読書旅行できると信頼を深めることができました。

密室トリック

「これは密室だ!」という決まり文句が出てくるとワクワクしてしまいます。現場の見取り図が掲載されていることも多々あり、「絶対に密室トリックを解いてやるぞ」とその頁にしおりを挟み、いつでも開けるようにしておきます。このような意気込みは毎度毎度ですが、私程度の読者が解けるようなトリックでは出版物にはならないようです。「そうだったのか・・・」と悔しがるのがいつものお決まりです。ところでこの密室トリックは、ディクスン・カーの分類(10数種類ほどの類型に分けられている)をはじめとして、多くの作家によって分類されています。ご興味のある方は検索してみてください。

京都×京都×密室といえば・・・

京大ミス研出身者をはじめとして京都出身のミステリー作家が多いことをこのコラムで取り上げました。では「京都」出身作家の書いた「京都」を舞台とした「密室」作品といえば・・・トリックの女王と呼ばれた山村美紗氏の「花の棺」が思い浮かびます。一般的に密室は洋室のドアの鍵が閉ざされている状況が多いのですが、この作品の密室は和室(茶室)であるというのが特徴です。強固なコンクリートや金属やガラスが境界ではなく、木と紙で仕切られた空間が密室になっているという設定に京都らしい和のテイストを感じました。いうまでもないことですが、私にはトリックを解くことはできませんでした。

密室大図鑑!

密室の話を続けて取り上げていますが、読了する作品には限りがありますので、あまたある密室の一部にしか出会っていません。いったい古今東西幾つの密室があるのでしょうか? 数えあげた人はいるのでしょうか? その解答ではありませんが、先日「密室大図鑑」なる本を偶然古書店で見つけました。本コラムで紹介しました同志社大学ミス研出身の有栖川有栖氏の著作です。氏が厳選した古今東西の密室をイラスト付きで解説しているという何ともマニアックな内容です。本コラムで紹介しました理系ミステリー作家にして材料学会論文賞受賞者でもある森博嗣氏の「すべてがFになる」も選出されていましたが、未読の密室作品が多数含まれていました。まだまだ密室への挑戦を続けられそうです。

最大の密室は?

密室は読んで字の如く「部屋」がその舞台となることが一般的ですが、人の出入り不可能な閉ざされた場所ということでは「建屋全体」が密室となることがあります。さらに大きな場所では「離島」もあるでしょう。これは「広義の密室」と呼べるでしょうが、クローズドサークルと呼ばれる別のジャンルになります。さらに大きな場所を考えると、「孤立した国家」・・・これはスパイ小説かもしれません。さらに大きな場所は「地球」・・・これは間違いなくSFですね。