高橋浩之氏(第65・66期副会長)コラム

2017年

難攻不落?の密室

前回のコラムでは密室の大きさを取り上げてみましたが、今回は難攻不落とも思われる風変わりな密室を思い描いてみました。人の出入り不能な閉ざされた場所ということで、観覧車のゴンドラ、運行中の列車の運転席、飛行機のコックピット、SPに警護された大統領執務室、核シェルター、有人人工衛星、深海探査艇、といったところです。もしかしたら既に作品に取り上げられている密室もあるかもしれませんが、未読ゆえということでご容赦ください。さて作品に取り上げてもらえそうな候補はありましたでしょうか?

読者への挑戦!

本格ミステリーと呼ばれるジャンルの作品の中には、「読者への挑戦」という文面が挿入されていることがあります。本編が突然中断され、作者から読者への挑戦文が登場します。このスタイルの作品を初めて目にしたときは驚いたものでした。「ここまでで推理に必要な手がかりは全て晒した。さあ読者よ、真相(犯人やトリック)を看破してみよ!」というのが典型的な文面です。「推理の手がかりはまだ欠けているな」と思っているところに突如この文面が登場しますので、「え?手がかりは全て揃ったの??」と焦って頁を遡ることもしばしばです。本格ミステリー以外では目にしないスタイルと思いますが、「他分野の小説にも読者への挑戦文ありましたよ」という情報がありましたらご一報ください。

ミステリーに登場するジグとは?

私の職場では日常的に「ジグ」という用語が使われています。読みは同じで英単語は「jig」、漢字は「治具」です。機械加工や組立を行うときに用いる道具のことで、職場外ではほとんど耳にしたことがないため機械専門用語と認識していました。さて先日読了した森博嗣氏のタイトルが「ジグ…」から始まる作中で、建築学科の先輩が後輩に「ジグとはものを作るときに使う位置合わせとかの道具、ようするに汎用的じゃないもののこと」と説明し、「ほら、鉄筋を曲げたとき使ったじゃない」と補足していました。この文面を読むまでは思いもしなかったのでしたが、タイトルの「ジグ…」とは職場で使っている治具そのものなのでした。治具が建築分野で使われていることも本作で知りました。

理系ミステリー(3)

本コラムで理系ミステリー作家の代表格として森博嗣氏と東野圭吾氏を紹介しましたが、第47回メフィスト賞を受賞して2013年にデビューした周木律氏の作品も結構な理系ミステリーです。主人公(探偵役)は放浪の天才数学者。作中の会話を引用しますと、「トーラスっていうのは位相幾何学の用語で、ドーナツみたいな穴の開いた形のことを指すの。トーラスの一次元ベッチ数は二になる・・・」はて?この数学ネタを何事もなく読み進められる読者はどれほどいるのでしょうか?本作では位相幾何学が密室の謎を解く鍵になるものの、数学ネタの部分が理解できなくても(もしくは読み飛ばしても)、ストーリーを理解するうえには問題ありませんのでご安心あれ。

横溝正史ブーム

私が高校生の頃(昭和50年代)、空前の横溝正史ブームが起きました。角川映画の「犬神家の一族」がきっかけとなり、その後も横溝作品が映画化、ドラマ化されたことをご記憶の方も多いと思います。「犬神家」や「八つ墓村」の特定の場面の映像やセリフは今も記憶に鮮明です(繰り返しCMで見たからかもしれません)。さて、先日古書店で横溝作品を見かけ、懐かしく思ったためおよそ40年ぶりに読んでみました。部分々々に記憶はあるものの全体としては忘れていることが多く、初めて読んだ作品のように十分に楽しむことができました。驚いたことにメインのトリックすら忘れている始末でしたが・・・

ノックスの十戒

ノックスの十戒とは、ロナルド・ノックスが1928年に発表した推理小説を書く際の10項目のルールとされています。いくつか取り上げてみますと、
1.犯人は物語の当初に登場していなければならない
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない
その他の項目にも興味のある方は検索してみてください。なお実際のミステリー作品にはこの十戒を破ったものが多数あります。十戒のひとつである「探偵自身が犯人であってはならない」を破った作品も何作か読んだことがあります。「それはずるい!」と結末の時点では思いますが、結局のところ面白ければ何でもアリだなと、いうのが一般的読者層である私の感想です。

2016年

時刻表トリック

時刻表トリックの傑作として読み継がれている松本清張氏の「点と線」を45年ほど前に読んだことがミステリー愛好家になるきっかけとなりました。夏休みの読書感想文の宿題に本作を書いたのですからよほど気に入ったのでしょう。分厚い時刻表を開いて乗り継ぎを調べることも遠方に旅に出るときの楽しみのひとつでしたが、今はネットで簡単に経路検索できてしまう便利な世の中となりました。その反面、思いもよらぬ経路で早く目的地へ到着…という様なトリックは、今は成立しないかもしれませんね。

理系ミステリー

理系ミステリーといわれるジャンルで人気の森博嗣氏。手元の文庫本の著者プロフィールには「某国立大学の工学部助教授」と記載されていますが、コンクリートが専門の建築学科の先生だったということはご存じの方も多いと思います。いかにも理系らしく「無重力状態で紙飛行機はどのように飛ぶか」といったことが作中で解説されています。もちろん専門のコンクリートの種類や乾燥時間なども登場します(トリックの一部として)。特筆すべきことは、1990年に材料学会の論文賞を受賞されていることです!(関東支部の横山先生に教えていただいた情報です)

旅情ミステリー

旅情ミステリーを読むと、知らない処に行った気分が味わえることが楽しみのひとつです。それまでまったく聞いたことのない地名であったのに、読み終わって行ってみたいと思う場所は増える一方です。残念ながらなかなか実現しませんが。内田康夫氏の小説の舞台となった奈良の天河神社のように、小説やその映画化によって訪れる人が増えたということは結構あるそうです。

旅情ミステリー(2)

訪れたことのある観光地などが舞台のミステリーの場合でも、読みながらその風景が懐かしく思い出されることで読書の楽しみが膨らみます。最近読んだ長崎を舞台とした旅情ミステリーでは、20年ほど前に訪れたグラバー園や稲佐山などの様子が鮮明に蘇りました。これもまた再訪したいと思うのですが、読むほどに候補が増えるようではきりがありません。

ネタばれ注意

飲食店を選ぶとき、実際に食事をした人の感想が参考になりますので、ネットで検索することが多いと思います。私も第65期通常総会で富山を訪れた際、「富山ブラックラーメン」をどのお店で食べようかと検索しました。同じようにミステリーについても既読者のお勧めをネットで調べることがあります。ただし飲食店の検索と異なる重要なポイントが…それは既読者の感想を絶対に読まないこと!「どんなに素晴らしいトリックだったのか」が解説されていることがままあるからです。それを先に知ってしまったらミステリーを読む楽しみは台無しです。

理系ミステリー(2)

理系ミステリーといえば、ドラマや映画でおなじみの東野圭吾氏を多くの人が思い浮かべると思います。私が読んだ作品中に、「ワイヤー放電加工機」、「超音波加工機」といった用語が登場しました。いずれも職場にある工作機械名称ですので、その原理からよく知っているのですが、見たことも聞いたこともないという文系読者はどのようなものを思い浮かべるのかな?と興味がわいたりします。もっとも全体のストーリーには影響ないので、気に留めることなく読み続けているのでしょうね。

嵐の山荘

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況下でおこる事件を扱ったミステリー、そのジャンルを称して「嵐の山荘もの」と呼んでいます。映画化されたアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」が古典的作品のひとつで、小学生のころTVでドキドキしながら見た記憶があります。近年でも多くのミステリー作家がこのジャンルに挑んでいますが、当然過去の作品と同じネタは使えませんので後になるほど新たなアイデアが必要となります。既製の特許を避けながら、さらにいい商品を生み出す苦労に少し似ているのかもしれませんね。

嵐の山荘(2)

外界との往来が断たれた状況下ですので電話は繋がりません。電話線が切られているというのが定番です。無線機が修理不能なほどに壊されているというのもこれまた定番です。90年代前半まではこの設定でよかったのでしょうが、今世紀ともなりますと一人一台所有している携帯電話が解決すべき問題となります。通話エリア外に連れ出すというのでは工夫が乏しいでしょう。不審に思われないような手段で隔離される全員の携帯電話を取り上げることができれば面白いかもしれません。科学技術の発展とともにミステリーの設定も変わり、ハードルが高くなるのは興味深いことです。

ミス研出身

私と同世代の人気ミステリー作家に綾辻行人氏(1960年生れ)、我孫子武丸氏(62年生れ)、法月綸太郎氏(64年生れ)がいます。この3名にはミステリーファンご存知の共通点があります。それは3名とも「京大推理小説研究会(通称:京大ミス研)」の出身者ということです。調べたところ綾辻氏は、京大の公開講座において学生・教職員・一般人を対象とした講演を行ったこともあるとのこと。機会があれば聴講したいものです。 さらにお隣の同志社大学ミス研出身者に、今年TVドラマ化された「火村英生シリーズ」でお馴染みの有栖川有栖氏(59年生れ)がいます。この頃に京都で学生時代を過ごし、プロの人気作家となった方が多いのは何故なのでしょうか?これもミステリーですね。

旅情ミステリー(3)

「このジャンルの作品を読む楽しみのひとつは旅をした気分が味わえること」と本コラムに以前書きました。それゆえ、あえてタイトルに地元を冠したミステリーを読むことはなかったのですが、最近になって地元横浜を舞台とした内田康夫氏の作品を読みました。すると横浜の観光名所だけではなく、なんと私の生活圏内にあるローカルなお寺が事件の舞台の一つになっているではありませんか。さらに驚くことに、そのお寺の裏山(あまり整備されていない散策路がある)や周辺の住宅地が現実の通りに丁寧に描かれていたのです。氏の作品は47都道府県すべてが舞台となっていますが、どの作品でも安心して読書旅行できると信頼を深めることができました。

密室トリック

「これは密室だ!」という決まり文句が出てくるとワクワクしてしまいます。現場の見取り図が掲載されていることも多々あり、「絶対に密室トリックを解いてやるぞ」とその頁にしおりを挟み、いつでも開けるようにしておきます。このような意気込みは毎度毎度ですが、私程度の読者が解けるようなトリックでは出版物にはならないようです。「そうだったのか・・・」と悔しがるのがいつものお決まりです。ところでこの密室トリックは、ディクスン・カーの分類(10数種類ほどの類型に分けられている)をはじめとして、多くの作家によって分類されています。ご興味のある方は検索してみてください。

京都×京都×密室といえば・・・

京大ミス研出身者をはじめとして京都出身のミステリー作家が多いことをこのコラムで取り上げました。では「京都」出身作家の書いた「京都」を舞台とした「密室」作品といえば・・・トリックの女王と呼ばれた山村美紗氏の「花の棺」が思い浮かびます。一般的に密室は洋室のドアの鍵が閉ざされている状況が多いのですが、この作品の密室は和室(茶室)であるというのが特徴です。強固なコンクリートや金属やガラスが境界ではなく、木と紙で仕切られた空間が密室になっているという設定に京都らしい和のテイストを感じました。いうまでもないことですが、私にはトリックを解くことはできませんでした。

密室大図鑑!

密室の話を続けて取り上げていますが、読了する作品には限りがありますので、あまたある密室の一部にしか出会っていません。いったい古今東西幾つの密室があるのでしょうか? 数えあげた人はいるのでしょうか? その解答ではありませんが、先日「密室大図鑑」なる本を偶然古書店で見つけました。本コラムで紹介しました同志社大学ミス研出身の有栖川有栖氏の著作です。氏が厳選した古今東西の密室をイラスト付きで解説しているという何ともマニアックな内容です。本コラムで紹介しました理系ミステリー作家にして材料学会論文賞受賞者でもある森博嗣氏の「すべてがFになる」も選出されていましたが、未読の密室作品が多数含まれていました。まだまだ密室への挑戦を続けられそうです。

最大の密室は?

密室は読んで字の如く「部屋」がその舞台となることが一般的ですが、人の出入り不可能な閉ざされた場所ということでは「建屋全体」が密室となることがあります。さらに大きな場所では「離島」もあるでしょう。これは「広義の密室」と呼べるでしょうが、クローズドサークルと呼ばれる別のジャンルになります。さらに大きな場所を考えると、「孤立した国家」・・・これはスパイ小説かもしれません。さらに大きな場所は「地球」・・・これは間違いなくSFですね。