中村俊哉氏(第63,64期学術交流理事)コラム

2015年

理解不可能

「天皇の料理番」というドラマの初回を観ました.明治時代の町並みや生活が見事に描かれていました.実在した主人公が亡くなったのは月着陸もとっくに実現した昭和49年ですから,人の一生の間の技術の進歩の大きさに驚きます.一方,A.C.クラークの「3001年終局への旅」では,千年間の仮死状態から蘇生した主人公に対して,「31世紀の技術は21世紀に予見されていた,理解可能だ」と説明される件があります.技術発展の限界を憂慮したのかもしれませんが,さて,私たちは22世紀に向けて理解不可能な技術を創り出せるでしょうか.

いろんな顔

整数,有理数,無理数,複素数という数の分類には馴染んでいますが,別の見方もあります. 2次式など多項式の根になる数は代数的数,自然対数の底や円周率のように根にならない数は 超越数と呼ばれます.この場合,ルート2や虚数単位は普通の整数や有理数と同じ顔,しかも, 整数係数多項式の根なので,代数的"整数"という顔を持ちます. 基礎,応用,開発という研究の分類には馴染みがあります.シーズ研究,ニーズ研究,目的指向型 研究なども,この慣れ親しんだ分類が根っこにあると思います.これからの研究や教育について, 基礎vs応用といった不毛な対立構図ではなく,代数的数のようにまったく異なる見方ができないものか. 何事にもいろんな顔を探ってみたいものです.

時代変化の和と洋

日本では明治維新に,西洋では世紀末に不連続な時代変化を感じます.明治元年は 1868年ですから世紀の変わり目と32年ずれています.この「ずれ」が面白く感じられる ことがあります.例えば,ワーグナーは明治16年没,ブラームスは明治30年没,マーラーは 明治44年没ですから,これら世紀末に活躍した大作曲家達は随分昔の人のようですが, 全盛期はどっぷり明治時代.ブラームスは坂本龍馬の3歳年上ですから,幕末の志士と 同時代人です.秋山好古の1歳年下のマーラーは日露戦争の頃,交響曲第6番,7番という 傑作を作曲しています.ちょっと面白いと思いました.